埼玉医科大学国際医療センター脳神経外科 | 成人脳腫瘍

対象疾患
成人脳腫瘍

・脳腫瘍(のうしゅよう)とは:

脳腫瘍には良性腫瘍(りょうせいしゅよう)と悪性腫瘍(あくせいしゅよう)があり,それぞれがさらに細かく分類されています。それぞれの腫瘍の種類によって治療の方法や予想される経過がまったく違ってきます。脳腫瘍には様々な種類があって個人差が大きいこと、これがほかの癌との大きく違う点の1つです。まず正確な病名を確認した上で、治療方法や予想される経過などについて詳しく説明を受けて下さい。
以下に主な脳腫瘍について、その特徴をまとめた上で、埼玉医科大学国際医療センター脳脊髄腫瘍科において行なわれている治療方法について説明します。下記に記載した以外にもさまざまな種類の脳腫瘍・脊髄腫瘍がありますが、当科ではあらゆる脳・脊髄の腫瘍を対象に治療を行っております。経験豊富な脳・脊髄腫瘍の専門家が、最新の知見を集め、放射線科・リハビリテーション科・病理診断科などとの合同カンファレンスなどで治療方針を検討しております。さらには他の臓器の専門家も含めて、広い治療分野と連携することで、最適な治療を行うべく努力しています。

*神経膠腫(しんけいこうしゅ)またはグリオーマ

悪性の脳腫瘍の代表です。特殊な場合に、たとえば毛様細胞性星細胞腫(もうようさいぼうせいせいさいぼうしゅ)などといった、比較的良性の経過をたどる腫瘍のこともあります。星細胞腫(せいさいぼうしゅ)、乏突起膠腫(ぼうとっきこうしゅ)、退形成性(たいけいせいせい)星細胞腫(せいさいぼうしゅ)、退形成性乏突起膠腫、膠芽腫(こうがしゅ)などが代表的な神経膠腫ですが、これらは原則として悪性腫瘍です。神経膠腫の多くは腫瘍のみがかたまりで大きくなるのではなく、正常の脳にしみ渡るようにひろがります。従って、一部の神経膠腫をのぞき、「完全に治癒(ちゆ)する可能性」は残念ながらとてもわずかであると考えなければなりません。
なかでも膠芽腫や退形成性星細胞腫、あるいは退形成性乏突起膠腫といわれる腫瘍は、悪性度が高く、グレード1から4まであるWHO分類(数字が大きいほど悪性度が高い)のうち、グレード3あるいは4に分類されます。期待される生存期間は膠芽腫では1年から1年半、退形成性星細胞腫では3年強程度でしかありません。これらの腫瘍に対する「標準的な治療方法」は、まず手術で可能な限り腫瘍を取り除いて、その後に放射線治療(ほうしゃせんちりょう)と抗がん剤による治療を併用することです。ここで言う「標準的な治療方法」というのは、ただ単にみんなが行なっている治療法というだけの意味ではなくて、その治療を受けると最も長く生きられる可能性があるということが科学的に証明されている治療方法ということを意味します。
手術治療は、さまざまな機器や手法をもちいて、可能なかぎり正常脳を損傷せず、腫瘍組織を最大限に摘出する方針としています。具体的には、ナビゲーションシステム・神経モニタリング・5-アミノレブリン酸(5-ALA)による術中蛍光診断を用い、必要に応じて、覚醒下開頭術(かくせいかかいとうじゅつ)や術中CT撮影,神経内視鏡(しんけいないしきょう)を駆使して手術支援を行います。
また、ギリアデルといって、カルムスチンという抗がん剤を含んだ生体内分解性のポリマー基剤を手術摘出した腫瘍の周辺に留置して治療を行う場合もあります。
放射線治療としては、リニアックという装置を用いてエックス線を照射する方法が標準です。神経膠腫は正常な脳との境界がはっきりせず、脳の中にしみ込んでいくように大きくなっていることがほとんどですので、境界のはっきりした病気に用いるガンマナイフやサイバーナイフによる放射線治療は通常行なわれません。通常の悪性神経膠腫の場合、リニアックによって1回2グレイを30回照射(しょうしゃ)する方法が一般に行なわれています。
抗がん剤治療は、通常テモゾロミドという抗がん剤を内服して行います。この薬剤を放射線治療に併用すると有効であることが、科学的に証明されています。放射線治療中はテモゾロミドを毎日内服し、その後は通院で維持療法としておおよそひと月に5日程内服していただいております。
また、平成25年6月に悪性神経膠腫に対して保険適応となった、ベバシズマブという腫瘍の血管新生(けっかんしんせい)を阻害するタイプの抗がん剤も必要に応じて使用しています。これは分子標的薬と呼ばれる新しい抗がん剤の一種で、当科ではその開発段階から関わってきましたので、使用経験も豊富です。
当科の西川亮はJCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)脳腫瘍部門の代表者として全国の脳腫瘍治療を牽引(けんいん)しています。日本ならびに世界の最先端の治療をいち早く取り入れ、これを検証する治験や臨床試験を積極的に主導または参加しています。これらの治験や臨床試験はすべて学内の倫理審査委員会に申請し、認可をうけています。悪性神経膠腫に対する最も新しい治療はオプチューンと呼ばれる治療法です。これは頭髪を剃って電極を貼り付け、電場を持続的に発生させ、がん細胞の分裂・増殖を抑えようという、画期的な治療法です。平成27年8月現在、認可はされていますが保険適応が認められていない過渡期にありますので、およそ月に280万円の費用がかかります。ご興味のある方はご相談ください。
治験や臨床試験に参加するには一定の条件を満たす必要があるので、これら新しい治療方法についての説明を希望される方もぜひご相談下さい。
a 上段 左:ギリアデル使用例 右:5-ALA陽性例
下段 覚醒下手術の様子

*中枢神経原発悪性リンパ腫(ちゅうすうしんけいげんぱつあくせいりんぱしゅ)

悪性リンパ腫も極めて悪性で、また特に脳の中にしみ込むように発育する性質が強い厄介(やっかい)な腫瘍で、特に最近増加傾向にあります。従来は手術によって診断を確かめた後、放射線治療を行なう方法が広く行なわれていましたが、これではおよそ1年間の生存期間しか期待できませんでした。1990年代後半からは手術を行なった後にまず大量メトトレキサート療法を行なって、それから放射線治療を行なうという方法が導入され,生存期間がおよそ3年間は期待できるようになりました。大量メトトレキサート療法はきちんと行わないと重大な副作用の危険がありますので、十分経験のある施設で行うべきです。一方、これらの治療法によって悪性リンパ腫の生存期間は伸びてきましたが、それと裏腹に治療による認知障害(にんちしょうがい)の危険性が増加しています。特に高齢者の方に、放射線治療を行うと、認知障害が高頻度に起こるため、どのような治療法を選択すべきか、大きな問題です。埼玉医科大学国際医療センター脳脊髄腫瘍科では高齢者の方には放射線治療を行わず、化学療法のみで治療を行っており、よい治療成績を得ています。治療方法の利点欠点を熟知(じゅくち)した医師が充分な説明を行ないますので、是非ご相談ください。さらに当科では、JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)の臨床試験で、大量メトトレキサート療法と放射線治療にテモゾロミドを併用した治療の効果を検証中です。詳しくは担当医にご相談ください。

残念ながら腫瘍が再発してしまった場合にも、大量メトトレキサート療法にリツキサン、プロカルバジン、オンコビンという複数の抗がん剤を併用し、もう一度寛解に持ち込むことが可能な患者さんもいらっしゃいます。また、この治療にも効果がない場合には、現時点では保険適応になっていない抗がん剤ですが、テモゾロミドやアリムタによる治療が、病院の倫理審査委員会の許可を得て施行できる状況にありますので、これも担当医師に一度ご相談ください。悪性リンパ腫

*転移性脳腫瘍(てんいせいのうしゅよう)

決して無視できない悪性脳腫瘍の1つが癌の脳転移です。既に肺癌(はいがん)や乳癌(にゅうがん)などが診断されていて治療を受け、残念ながらその治療の経過中に脳転移が見つかった場合、あるいはいきなり脳転移が見つかってしまって、そこから原発(げんぱつ)癌が見つかる場合、あるいは原発癌がどうしても見つからないまま脳転移だけが治療される場合など、様々な状況があると思います。それぞれの患者さんの状況や体力などに応じて、治療方針を決定する必要があります。手術が必要な場合、脳全体に放射線照射が必要な場合、ガンマナイフやサイバーナイフなどの定位的放射線照射(ていいてきほうしゃせんしょうしゃ)が必要な場合など様々です。埼玉医科大学国際医療センターではサイバーナイフによる定位的放射線照射が可能です。原発癌それぞれの専門家と協力して治療に当たっています。meta

*髄膜腫(ずいまくしゅ)、神経鞘腫(しんけいしょうしゅ)などの良性腫瘍

これらの良性腫瘍の治療方法は手術によって摘出(てきしゅつ)することが原則です。髄膜腫では、術中の出血を減らし、腫瘍を摘出しやすくする目的(脳への負担が軽くなります)で、術前に腫瘍の栄養血管を塞栓する手術(しゅようえいようけっかんそくせんじゅつ)を行うことがあります。これはカテーテルの治療を専門に行っている血管内治療科(けっかんないちりょうか)と連携して、開頭で腫瘍を摘出する前に腫瘍の栄養血管を塞栓する治療です。また特殊な場合、例えば悪性髄膜腫の場合や、手術ができない神経鞘腫などの場合に放射線治療やサイバーナイフ治療を組み合わせます。meningioma+AT 左:髄膜腫 右神経鞘腫(聴神経鞘腫)

*脳下垂体腫瘍(のうかすいたいしゅよう)

ホルモン中枢である下垂体の一部が腫瘍化した下垂体腺腫(かすいたいせんしゅ)もしばしばみられる腫瘍です。ほとんどが良性腫瘍ですが、大きくなると視神経(ししんけい)や正常の下垂体を圧迫し、視力障害やホルモン機能低下を引き起こします。また、下垂体腺腫全体の半数以上はホルモンを過剰に分泌(ぶんぴつ)する腫瘍であり、ホルモンのタイプに応じて、手術や内服治療を行います。ホルモンはとても複雑で、ヒトの身体の働きの色々な面と密接なつながりを持っています。ホルモン検査やホルモン異常の調節には専門的な知識が必要ですが、埼玉医科大学病院の内分泌内科(ないびんぴつないか)に脳下垂体ホルモンに関する専門家がいますので、手術前の検査や手術後の治療については相談しながら行なっています。
埼玉医科大学国際医療センターでは、鼻腔(びくう)内を熟知した頭頚部腫瘍科(とうけいぶしゅようか)の医師と協力して、鼻からの内視鏡手術を行っています。必要によりナビゲーションや顕微鏡(けんびきょう)を組み合わせています。これにより鼻の奥深くにある構造物(こうぞうぶつ)を解像度の高いハイビジョン画像で、かつ広い視野(しや)で接近して確認することができるため、手術の安全性および摘出率(てきしゅつりつ)向上につながっています。術後も頭頚部腫瘍科により鼻の中の観察が定期的におこなわれますので、患者さんの術後満足度も高くなっています。
下垂体
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